解糖系では1分子のグルコ-スは2分子のピルビン酸を生成するので2分子のNADHを生成します。さらに1分子のピルビン酸は、細胞内のミトコンドリアに送られ、ミトコンドリアのマトリックス内のTCA(tricarboxylic acid cycle)回路で3分子のNADHを発生させます。ミトコンドリアは外膜、膜間腔(まくかんこう)、内膜、マトリックスの2重膜構造を有しています。細胞によっては100~3000個ものミトコンドリアが含まれています。
運動してミトコンドリアが増えると同じ呼吸量でもATPの生産効率が高まるので、楽に走れるようになります。運動前は空腹にしておいて、最初に筋肉トレ-ニングをして汗をかいて有酸素運動状態に入ってから30分歩くだけでミトコンドリアは増加します。サウナの後に水風呂に入るとミトコンドリアは増加します。週末の2日間は摂取カロリを30%減らすのが有効です。日本医科大学の太田成男教授によると1日2時間の運動を1週間続けるだけでミトコンドリアは30%増加すると言われています。
TCA回路ではATP を直接作るのではなく、NADHやFADH2を作ります。さらにNADHやFADH2が呼吸鎖系でミトコンドリア内膜に水素イオンH+の濃度勾配を形成することにより、ATPを産生します。TCA回路は糖代謝だけでなく、アミノ酸代謝、尿素回路、糖新生など多くの代謝経路の仲立ちをしています。
TCA回路の全体反応は
・CH3-CO-S-CoA+3NAD ++FAD+2H2O+GDP+H3PO4
→ S-CoA+2CO2+3NADH+FADH2++2H++GTP
です。
NADHとFADH2はミトコンドリア内膜に埋め込まれた4つのたんぱく質複合体と反応してNAD +とFADに戻り、その際にミトコンドリアのマトリックスから膜間腔にH+を放出します。NADHは、解糖系で2分子、ピルビン酸脱水素酵素で2分子、TCA回路で6分子、合わせて10分子のATPを発生します。複合体ⅠでNADHはFMN(フラビン・モノヌクレオチド)と反応し、FMNに水素を渡します。FMNH2はFeSクラスタを介して、CoQ(ユビキノン)に水素を渡します。
・NADH+H+ +FMN→ NAD++FMNH2
・CoQ+FMNH2→CoQH2+FMN
複合体Ⅱでは、コハク酸がフマル酸(2重結合あり)に変化するときには自由エネルギ変化が小さいのでFADが使われます。
・HOOC-CH2-CH2-COOH+FAD →HOOC-CH=CH-COOH+FADH2
この反応で膜間腔に放出されるH+はありません。FAD (=Flavin Adenine Dinucleotide) はフラビン・アデニン・ジヌクレオチドの略語で、酸化還元反応における補酵素の一種です。FADの酸化還元電位は -219 mV で NAD 系より100mV程高く、開放エネルギが少なくNAD が使えないような反応で脱水素することができます。FADH2ではFADの左上の環が3つ並んだ部分の2つの酸素の二重結合がOH基になります。FADはADPにC5系炭素鎖と3環系のキノンが結合した構造をしています。
複合体Ⅲが行う電子伝達はQサイクルと呼ばれます。この反応では、まず、2分子のユビキノール(CoQH2)がユビキノン(CoQ)に変換される過程で4H+を膜間腔へと放出します。
・2CoQH2→ 2CoQ+4H++2e-+2e-
・CoQ+2H++2e-→CoQ H2
・Cyt(Fe3+)+2e-→Cyt(Fe2+)
なる反応が生じ、シトクロムcが還元されます。シトクロムcは膜間腔側にありヘム鉄(=鉄+ポルフィリン環)が含まれています。
複合体Ⅳは、シトクロムcオキシダーゼと呼ばれ、シトクロムc(Fe2+)を酸化して酸素を還元します。複合体 Ⅳが行う電子伝達の第一段階では、シトクロムc の電子がCuAに渡されます。その後、電子はヘムa→ヘムa3→CuBを経て、最終的に酸素(1/2O2)へと渡され、水(H2O)に変換されます。酸素分子の酸化還元電位は約 +810 mVであり、FAD よりはるかに電子を受け取りやすくなっています。
・Cyt(Fe2+)+2H++1/2O2 → Cyt(Fe3+)+H2O
このシトクロムcから酸素に電子が2個渡される過程で、2分子のH+がマトリクスから膜間腔へと輸送されます。複合体Ⅳにはヘム鉄(ヘムa)が多く含まれていますので、青酸カリがこのヘム鉄に配位すると、電子伝達系を阻害して、窒息してしまいます。