今日は5次以上の方程式は代数的に解けないことを示します。ガロア理論によれば、方程式が代数的に解けるということは、方程式のガロア群が可解群であるということでした。従ってn≧5のとき、Sn⊃An⊃N⊃・・・⊃Eなる正規群Nが存在するかを調べます。
対称群Snは(1,2,3、・・・n)の全ての解の置換の集合です。Anは偶置換群ですから、Sn⊃Anは常に成り立ちます。An⊃Nなる正規群Nが存在すると仮定して、Nはどんな性質をもっているかを調べます。正規群Nの共役元はNに属します。つまり任意の
- t∊N、a∊Anに対して、ata-1∊N
でした。Nは群ですから、ata-1t-1∊Nも成り立ちます。ata-1t-1を交換子といいます。交代群Anに含まれる循環置換のタイプは以下の4種類です。
(1)4次以上の巡回置換を含む置換
t=(0123…)……
(2) 3次の巡回置換を含む置換
t=(012)(34…)…
(3) 3次の巡回置換
t=(012)
(4)2つの互換を含む置換
t=(01)(23)…
互換は奇置換なので2つないと偶置換になりません。Nはこの中のどれかの循環置換タイプだと考えられます。最も単純な循環置換a=(123)、(124)・・∊Anによって、t∊Nの交換子ata-1t-1∊Nがどのような循環タイプに属するかを調べます。
a=(124)=(1→2→4→1)、t=(01)=(0→1→0)の意味であることに注意して下さい。初期の順列01234…がata-1t-1の作用で変化する様子を調べます。
[1] t=(012)(34…)…∊N、a=(124) ∊Anのとき
01234…(初期順列)
a=(1→2→4) 02431…(aの作用後の順列)
t=(0→1→2)(3→4→p…)… 10p42…(tの作用後の順列)
a-1=(1←2←4) 40p21…(a-1の作用後の順列)
t-1=(0←1←2)(3←4←p…)… 32410…(t-1の作用後の順列)
ata-1t-1によって、初期の順列が01234…から32410…に変化したので、
- ata-1t-1=(0→3→1→2→4)=(03124) :5次の巡回置換
と書けます。Nに3次の巡回置換を含む置換が含まれている場合、必ずNに5次の巡回置換が含まれていることが分かりました。これは4次以上の巡回置換を含む置換に含まれます。それでは4次以上の巡回置換は交換子でどのように変換されるでしょうか?
[2] t=(0123…)…∊N、a=(123) ∊Anのとき
01234…(初期順列)
a=(1→2→3) 02314…(aの作用後の順列)
t=(0→1→2→3→4→p…)… 1342p…(tの作用後の順列)
a-1=(1←2←3) 3241p…(a-1の作用後の順列)
t-1=(0←1←2←3←4←p…)… 21304…(t-1の作用後の順列)
よって、
- ata-1t-1=(0→2→3→0→2)=(023) :3次の巡回置換
Nに4次以上の巡回置換を含む置換が含まれている場合、Nには必ず3次の巡回置換が含まれることが分かりました。3次の巡回置換は交換子でどのように変換されるでしょうか?
[3] t=(012)∊N、a=(123) ∊Anのとき
01234…(初期順列)
a=(1→2→3) 02314…(aの作用後の順列)
t=(0→1→2) 10324…(tの作用後の順列)
a-1=(1←2←3) 30214…(a-1の作用後の順列)
t-1=(0←1←2) 32104…(t-1の作用後の順列)
よって、
- ata-1t-1=(0→3→0)(1→2→1)=(03)(12) :2つの独立な互換の積
Nに3次の巡回置換が含まれている場合、Nには必ず2つの独立な互換の積があることが分かりました。それでは独立な互換の積は交換子でどのように変換されるでしょうか?
[4] t=(01)(23)∊N、a=(123) ∊Anのとき
0123…(初期順列)
a=(1→2→3) 0231…(aの作用後の順列)
t=(0→1)(2→3)… 1320…(tの作用後の順列)
a-1=(1←2←3) 3210…(a-1の作用後の順列)
t-1=(0←1)(2←3)… 2301…(t-1の作用後の順列)
よって、
- ata-1t-1=(0→2→0)(1→3→1)=(02)(13) :2つの独立な互換の積
Nに独立な互換の積が含まれている場合、必ず2つの独立な互換の積がNに含まれることが分かりました。[1]~[4]の結果、Nには、少なくとも1つの独立な互換の積が含まれていることを示しています。
[5]任意の独立な互換積(jk)(mn)は正規群Nに含まれていることを示します。
Nに含まれている1つの独立な互換の積を(12)(34)とします。1234以外の数から任意の数jkmnを選び、偶置換aをつくります。
a=(jkmn/1234/pqrs)=(j→1→p、k→2→q、m→3→r、n→4→s)∊An
t=(12)(34)=(1→2→1)(3→4→3)∊N
a-1=(pqrs/1234/jkmn)=(j←1←p、k←2←q、m←3←r、n←4←s)∊An
NはAnの正規部分群なのでata-1∊Nです。
1234jkmn…(初期順列)
a=(jkmn/1234/pqrs) pqrs1234…(aの作用後の順列)
t=(1→2)(3→4) pqrs2143…(tの作用後の順列)
a-1=(pqrs/1234/jkmn) 1234kjnm…(a-1の作用後の順列)
よって
ata-1=(1234jkmn/1234kjnm)=(jkmn/kjnm) =(jk)(mn)∊N
Nには少なくとも1つの独立な互換の積があるので、Nには任意の独立な互換の積が含まれることが示されました。
[6]独立でない互換の積もNに含まれることを示します。
独立でない互換の積として(12)(13)があります。これは1がどちらにも入っているので独立ではありません。これも偶置換なのでAnに含まれています。(12)(13)はNに含まれているでしょか? 5次以上の置換群には、123の3解以外にも2解があります。それを45として、置換(45)を考えます。正規群Nには任意の独立な互換が含まれているので
- (12)(45)、 (45) (13)∊N → (12)(45)・(45)(13)=(12)(13)∊N
が成り立ちます。つまり正規群Nはすべての独立でない互換の積も含みます。交代群Anは全ての互換の積の集合ですから、結局n≧5のときAnの正規部分群Nは交代群An自身に他なりません。5次以上の交代群は正規の真部分群を含んでいないので、ガロア系列に分解できる可解群ではないことが示されました。ガロアが方程式の解という無限アナログの世界を解の群という有限デジタルの世界に引き戻したことで、高次方程式の解の公式を求める無駄な努力を省くことに成功しました。今日ガロアが編み出した群は様々な分野に応用されています。
ガロアは小学校に馴染めず、ずっとお母さんに勉強を教わっていました。15歳で数学と出会い、17歳で方程式論の論文を科学アカデミ-に提出しますが、コ-シ-に紛失され、再度書き改めた論文を受けたフ-リエが急逝してしまいます。受験に2度失敗して、街の名士であるお父さんが自殺して、絶望したガロアは革命運動に関わり、投獄されます。20歳の時に療養所で出会ったステファニ-という女性と出会いますが、他の男に決闘を申し込まれて、負傷したまま見捨てられ死んでしまいます。ガロアは自分の成果を称賛されたことは一度もありませんでした。天才はどんな境遇でも成果を残しますが、その生涯は本当に可哀そうです。